子供が頭をぶつけたら、まずはぶつけた所を冷やそうとする。ま、それはよしとして。では、いつまで続けるべきか?
3歳のYちゃん。昨日の朝、左のおでこを床にぶつけたらしい。打撲部位は3~4㌢大に腫れ、皮膚は一様に赤みを帯びている。今朝から、左のまぶたも腫れぼったくなったという。頭を保冷剤で冷やしながら、「頭の中が心配」とお母さんは落ち着かない。
Yちゃんは、冷却を痛がってか、お母さんに抱き着いたり、膝の上で横になったりと落ち着かない。だが、機嫌は良さそうで、顔色も普通だ。目の動きには異常はない。皮下出血(たんこぶ)の下には、目立った凹みはなさそうである。となれば、「検査するまでもなさそうだ」と、医者はすっかり冷めてる。
もちろん、骨折の有無は、レントゲン写真を撮れば簡単に分かる。頭の中の異常も、CT(コンピュータ断層撮影)で調べれば一目瞭然である。だが、聞き分けのない幼児の検査は、通常は不可能だ。Yちゃんには、お薬で眠らせてまで検査する意味がなかろう。
もしも、頭の中に出血していたら、頭痛がするはずだ。訴えることのできない子供は、機嫌が悪くなる。吐いたりする。乳幼児なら、出血の量によるが貧血になる。顔色が悪くなる。まぶたの腫れが頭蓋底骨折によるものなら、血液の混じった鼻水がポタポタ落ちたりする。目の動きも変になるかもしれない。Yちゃんの頭部打撲は、ただのたんこぶだけで済んだようである。
少しは落ち着いたお母さん。それでも、まだ、Yちゃんのおでこを冷やそうとしている。皮下出血は、コブができ始めてしばらくで、自然に止血するものだ。出血の拡大防止や鎮痛を目的にしても、打撲部位の冷却は、せいぜいが20~30分で十分ではなかろうか。
(石黒修三=いしぐろクリニック・脳神経外科医:10/17北國新聞掲載)