めまいや頭痛というのは、多くはそれぞれ別の原因で起きる。だが、中には、めまいも頭痛も起こすという欲張りな病気があるのだ。

45歳のK子さん。年に何回か、片頭痛の発作を起こした。ギザギザしたものが見える閃輝暗点という前兆が10分くらい続いた後、ズキンズキンする拍動性の頭痛が始まるのだ。でも、薬のおかげで、吐いて寝込むことはなくなった。

だが、この頃、頭痛のほかに、ひどいめまいが繰り返し起きるようになった。音に過敏になり、グルグル回る回転性のめまいがして、吐き気がする。体を動かすとひどくなるが、寝ても治らない。それが1日以上続く。耳鼻科で診てもらったら、「頭痛もあるし、頭を調べてもらえ」ということになった。MRI(磁気共鳴画像)の検査では、頭には異常を認めない。K子さんのめまいは、めまいの治療では治らない「前庭性片頭痛」ではなかろうか。

前庭性片頭痛とは、これまでに間違いなく片頭痛と診断された患者さんで、5分から72時間の間に持続するつらいめまい発作が起きるものだ。そのめまいの半分には、拍動性の強い頭痛、光や音に過敏、動くと悪化する、閃輝暗点の前兆などという片頭痛の特徴を2項目満たすこととされている。

ところで、この病気が注目されるようになったのは、約10年くらい前である。だから、患者さんはもちろん、医者の間でもまだ馴染みがない。そして、患者さんの中には、めまいのほうがつらくて、頭痛のことを話さない人もいるのだ。

だから、治りにくいめまいや原因が特定できないめまいの患者さんの中には、この前庭性片頭痛の患者さんが紛れ込んでいる危険性がある。医者も振り回されて、目も回れば頭も痛くなりそうだ。

(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック、脳神経外科医・石黒修三:12/26北國新聞掲載)