一言で頭痛というが、国際頭痛分類によれば300種以上ある。長く医者をしていても、実際に診るのは初めてという頭痛もあることになる。
60歳のT子さん。寝ついて3時間ほどで目が覚めてしまう。そして、両方の前頭から側頭にかけて、ズーンと重く鈍い痛みが1時間ほど続くのだと言う。と、それを聞いただけで、いつも寝不足みたいにボーとしているワッシーでさえ、しっかり覚醒してしまった。ひょっとして、T子さんの頭痛は、滅多にお目にかかれない「睡眠時頭痛」、別名「目覚まし時計頭痛」と呼ばれるものではなかろうか?
50歳以上の女性で、毎日のように両側の鈍痛で目が覚める。日中には、頭痛は起きないという。片頭痛と違って、じっと寝たままでも痛みは消えない。吐き気もない。音や光に敏感ということもない。群発頭痛のように、片目の奥がえぐられるような激しい頭痛でもない。目の充血や流涙などの自律神経症状もないのである。睡眠中に鼾をかいたり、無呼吸がみられることもないという。睡眠時無呼吸症候群も否定できそうである。
おっと、頭のMRI(磁気共鳴画像)の検査を忘れてはいけない。睡眠時頭痛の原因は、脳の視床下部の機能異常によるのではないかと考えられている。だが、視床下部はもちろん、頭蓋内には、頭痛の原因になると思われる脳腫瘍や出血などの異常はみられない。やはり、T子さんの頭痛は、「一次性睡眠時頭痛」の診断でよさそうである。
ところで、この頭痛は、診断がつくまでに平均5年はかかるという。病気の存在が、一般によく知られていないせいらしい。が、頭痛が比較的軽いものも多く、受診率が低いということもあるだろう。睡眠時頭痛は、意外と多いものかもしれないではないか。なーんだ。
(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック、脳神経外科医・石黒修三:4/24北國新聞掲載)