頭が痛くなるのは初めてだ。いや、頭痛持ちでも、いつもと違う頭痛がした。というのなら、大騒ぎして当たり前だ。
35歳のNさん。これまで頭痛など経験したことがない。というのに、この頃、朝起きても頭がすっきりしない。時には、ズーンと重い頭痛がするようになった。だいぶ前に、友人が脳腫瘍で手術を受けた。朝になると頭痛がして、吐いたりしていたらしい。ネットで調べると、脳腫瘍による頭痛は朝方に多いとある。Nさんには、吐き気もないし手足の不自由もない。が、「ホントは、私も脳腫瘍では?」と不安でたまらなくなった。
確かに、朝方の頭痛は、脳腫瘍に特徴的な症状の一つである。頭痛だけでなく嘔吐も伴うなどと聞いたりすれば、脳神経が専門のワッシーでも、まずは、「ひょっとして脳腫瘍では?」と考えるほどである。
頭痛は、脳圧が高いせいで起きる。脳腫瘍が頭蓋内に場所を取っている分、もともと脳圧は高くなっている。が、脳圧は、生理的に睡眠中にはさらに高くなるため、朝方に頭痛を起こすのである。また、脳圧が高くなると、延髄の嘔吐中枢を刺激するので嘔吐する。吐き気なしに、吐物を反射状に吐く。吐くと、脳圧が下がって頭痛が軽くなるという経過を取る。
腫瘍は、良性でも悪性でも少しずつ大きくなるので、頭痛が起きればだんだん憎悪する。だが、Nさんの頭痛はひどくなっていない。嘔吐もない。ワッシーは、「ま、脳腫瘍ではなかろう」と、半分は冷めながら、頭のMRI(磁気共鳴画像)の検査をする。やはり、脳腫瘍は勿論、異常は見付からない。
そうだ、大山鳴動して鼠一匹もでないのだ。が、だれがそれを笑えようか。脳腫瘍を疑って悶々とした日々を送るより、検査で早く結論を出したNさんのほうが賢い。
(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック、脳神経外科医・石黒修三:5/8北國新聞掲載)