医者に診てもらわなくても、鎮痛剤などが手に入る時代だ。そのせいか、使い方を間違えては、つらい思いをする人も出てくる。
26歳のA子さん。10代から、年に2、3回、頭痛で寝込み、学校を休むこともあった。社会人になった頃から、頭痛の頻度が増えた。が、仕事が忙しいこともあり、市販の鎮痛剤でしのいでいた。
ひどい頭痛が起きれば、仕事を休まなければならなくなる。それで、頭痛が起きそうな気がしたら、すぐにでも鎮痛剤を飲むようになった。だが、数カ月前から、頭痛は毎日のように朝早くから起きるようになる。どの鎮痛剤も、痛みが多少は軽くなる程度の効果しかない。会社も休みがちになり、初めて受診することになった。
頭のMRI(磁気共鳴画像)の検査には異常は見られない。もともと持病であった片頭痛が、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛、MOH)に変わったものではなかろうか。
MOHの診断基準は、①片頭痛や緊張型頭痛などの頭痛持ちの患者さんに、頭痛が1カ月に15日以上起きる②1種類以上の頭痛治療薬を、3カ月を超えて定期的に乱用している。③他に頭痛の原因が考えられないーことである。頭痛治療薬を使い続けることで脳の痛みに対する感受性が増強され、弱い痛みでも強く感じてしまうからと言われている。
治療の原則は、原因薬剤の中止である。だが、これがなかなかに難しい。いきなり中止させると反跳頭痛が起きやすくなる。リバウンドで、頭痛が増強することがあるのだ。と、中には、医者に黙って、また、市販の鎮痛剤を飲むような患者さんも出てくるのだ。そうだった。鎮痛剤は、ドラッグストアなどで簡単に入手できるのだ。MOHになる人が増え、その治療に難渋するヤブ医者も増える。
(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック、脳神経外科医・石黒修三:5/22北國新聞掲載)