めまいや頭痛というのは、患者さんにしか分からない症状だ。詳しく話してくれないと、医者泣かせになる。

16歳のS子さん。父親と一緒に来院した。なぜか、暗い表情で口数が少ない。どうやら、月に一度は、片頭痛で寝込むようである。時に、ひどい頭痛の前に、グルグル回る回転性のめまいが15分ほど続くらしい。前兆だ。

片頭痛の前兆といえば、ほとんどのものは、ギザギザしたものが動いて見える「閃輝暗点」である。めまいが前兆というのは珍しい。医者の習性で、胸がやたら騒ぐではないか。で、めまい以外に症状がなかったかを知りたくなる。が、彼女の答えはどうにもはっきりしない。

もしも、前兆として、めまいの他に、呂律が回らない、ものが二重に見える、体がうまく動かない、耳鳴りや難聴がある、意識がぼやけるなどといった脳幹という場所の症状があれば、「脳幹性前兆を伴う片頭痛」が疑わしいことになる。

一般的には、片頭痛だからトリプタン製剤での治療を考えるかもしれない。だが、脳幹性前兆を伴う片頭痛にはトリプタン製剤は禁忌とされているのだ。前兆の原因に脳幹の血流障害は否定できないし、トリプタン製剤は血管を収縮させるかららしい。もっとも、13例に使用して副作用が出なかったと言う報告もある。が、1例だが、脳梗塞を起こしたという論文もあるのである。君子危うきに近からず。と言うより、ただ気が小さいだけか。ワッシーは、どう治療しようかと、実に悩ましい。

そうだ。S子さんだけではない。欲しい情報を正しく伝えてくれる患者さんはそう多くない。「これはタイヘン」と思った時には、メモでもしてくれと言いたくなる。が、パニックになって、それどころではないのだろうか?ウーム。どうしよう。

(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック、脳神経外科・石黒修三:7/31北國新聞掲載)