スポーツ選手には頭痛持ちが少ないという。運動が慢性頭痛の予防になるからという。が、人によっては、運動が逆効果になることもあるのだ。

46歳のF子さん。長い病歴のある片頭痛の患者さん。最近は、月に1回の予防注射で、月に4~5回あった片頭痛の発作が1回あるかないかになっている。「でも、センセ。運動で片頭痛を予防できるらしい。注射の代わりになる運動は?」と真剣である。

なんでも物の値段の上がるご時世だ。優れた効果があるとはいえ、片頭痛の予防注射は高い。保険を使っても、1万札円は簡単に財布から消えてしまう。運動で片頭痛が予防できるというのなら、注射なんかすることはない。

で、確かに、最近の研究報告では、適度な運動で片頭痛発作も予防できるということになっている。具体的には、ウオーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動が予防に効果的で、週に3回、30分程度を目安に行うと良いという。が、ここで強いて、へそを曲げて考えてみよう。

慢性頭痛でも緊張型頭痛のように、頭の周りの筋肉が硬くなり、血管も収縮することで起きる頭痛なら、運動が頭痛の軽減や予防に繋がるのは理解できる。だが、片頭痛の人では、激しい運動の後に、片頭痛の発作が誘発されやすいのだ。運動による脳血管の拡張が引き金になるらしい。ところで、適度な運動と推奨されているジョギングや水泳でも、人によっては過激な運動になり得るのではなかろうか?

問題のF子さんは、これまでは体を動かすことが苦手だった人。どうしてもというのなら、疲れたらすぐに止める約束でのウオーキングはどうだろう。と言っても、始めるのは涼しくなってから。あっ、気候の変動しやすい秋は、片頭痛を起こしやすいか。どうしよう。

(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック・脳神経外科・石黒修三:9/11北國新聞掲載)