医者の仕事には、患者さんからの信頼が欠かせない。だが、その信頼の基準というのは、患者さんによってさまざまなのである。
82歳のK子さん。軽い脳梗塞で、20年以上診ている患者さんだ。いつもの診察が終わってから、「センセ。娘のことで相談が」と言う。51歳のA子さんのことである。1,2年前から、箸を持ったり、パソコンを使ったりする時、手に細かい震えが目立つようになったのだという。「ここで、脳神経内科の女の先生に、丁寧には診てもらったけど」と、親子ともども、いまいち納得していない様子である。
体の震え(振戦)と言えば、緊張のあまり体が震えるという生理的なものもある。だが、病的な震えも少なくない。A子さんの場合、手などに力を入れ、ある姿勢を取った時に振戦が起き、他に症状がないと言うのだから、おそらくは「本態性振戦」だろう。
同じく手が震える病気でよく知られているのはパーキンソン病だ。が、振戦は何もしていない安静時にみられる。体がこわばって、動きが悪くなるという症状を伴う。どちらも、薬で経過をみて、効果が乏しいか症状が強い時には手術をすることもある。が、初期には、まずは「脳神経内科」で診てもらうほうが良い病気である。
と言っても、「脳神経の病気なら脳神経外科」としか頭にないK子さんだ。脳神経内科と言ってもピンとこない。が、無理もない。「神経内科」が脳神経内科に名前を変えてから、まだ8年しか経っていないのだ。それまでは長らく、精神科や心療内科と間違われたりした気の毒な歴史がある。
で、「その先生は、ワッシーの一推しです」と言うが怪訝な顔のK子さんだ。やむなく、「ワッシーの娘です」と明かす。と、急に表情が明るくなり、深くうなずくではないか。ウーム。
(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック・脳神経外科・石黒修三:12/18北國新聞掲載)