心配性というのは、損な性分である。だが、時にはそのおかげで、病気が早く見つかることもあるのだ。

70歳のY子さん。足を滑らせ転んで、後ろ頭を打った。4,5日経つが、ひどく忘れっぽくなったと深刻である。が、つい、「またー」と言いたくもなる。実は、半年前にも同じ訴えで受診しているのだ。その時、希望により頭のMRI(磁気共鳴画像)の検査もしている。でも、加齢による変化があるだけだった。

診察をしても、認知機能をはじめとして異常はない。頭痛もなく、検査なしで経過をみることにしようかとも思った。が、Y子さんは納得しない。で、CT(コンピューター断層撮影)の検査で頭の中に出血などのないことを確認することにした。

おっと、危ないところであった。なんと、両側の頭蓋骨と脳の表面の間に、1㌢以上はある隙間が写っているではないか。左でやや大きく、少し白っぽい印象がある。頭部打撲後にできた軽微な出血を伴う「硬膜下水腫」である。

硬膜下水腫は、頭部打撲によって、脳の表面にあるくも膜が裂け、その隙間から脳脊髄液が流出して硬膜とくも膜の間(硬膜下腔)に貯留して起きるものだ。が、水腫は、無症状で経過することが多い。自然に吸収され、治癒することもある。だが、数週間から数カ月の間に、慢性硬膜下血腫に移行することがあるのだ。手足の麻痺などの脳の圧排症状が強ければ、手術が必要になる。

で、それからが大変だった。「大概は、大事に至らない」と、何度も説明はした。だが、「手がしびれる」とか「ふらつく」、「耳鳴りがする」などと、硬膜下水腫では考えられない訴えが続くY子さんである。もちろん、その対応も医者の務めとは分かっている。が、さすがに、些かブルーにはなりまする。

(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック・脳神経外科・石黒修三:1/10北國新聞掲載)