皮肉なことだ。リラックスするための入浴が頭痛の引き金になることもあるという。

54歳のK子さん。ある日の夜、入浴中に、突然頭全体の激しい痛みに襲われた。近くの病院の救急外来で頭のCT(コンピューター断層撮影)検査を受けたが、異常なしと言われている。ひどい頭痛は、2時間くらいで消失した。その後も、時にはシャワーだけでも頭痛がしたが、睡眠も取れ、日中も異常はなかった。だが、1週間後に、浴槽の中で、また激しい頭痛が起きたのだ。

意識は清明で、手足の麻痺などの脳の症状はない。頭痛は、診察時には軽くなっていた。頭のMRI(磁気共鳴画像)検査には異常はない。くも膜下出血や脳出血、腫瘍や脳梗塞も否定できる。だが、MRA(磁気共鳴血管画像)には、脳動脈の2カ所に、血管が細くなったり(攣縮)、拡張したりする数珠状変化がみられるではないか。ということは、K子さんの入浴時に繰り返し起きた雷鳴頭痛の原因として、「可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)」が疑われることになる。

RCVSでは、入浴やシャワー、性行為や息こらえなどをきっかけに突然激しい頭痛が引き起こされ、1カ月以内は繰り返すことが多いという。発生機序として、全身の交感神経系の異常興奮が考えられるが詳細は不明である。頭痛は発症後1週間くらいがピークで、次第に軽くなってくるらしい。発症2~3週間後にみられる血管攣縮も、12週間内には改善するという。

だが、注目すべきは、RCVSには血管の攣縮より、少なからず脳梗塞などの合併症がみられることである。鎮痛剤などで痛みをごまかしていると、手足が動かなくなったりすることもあり得るのだ。かといって、何週間も風呂に入らないわけにもいかない。トホホな病気である。

(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック、脳神経外科医・石黒修三:4/10北國新聞掲載)