「たかが神経痛か」と、軽くみてはいけない。それが何年も続くとなると、「たかが」などと言ってはおれなくなる。

80歳のSさん。2、3日前から、左の後ろ頭が痛くなった。断続的に、ピリピリ、ツクツクと痛む。だんだんその痛みが強くなって、昨夜は痛くて眠れなかったようだ。訴えから、「後頭神経痛」が疑われる。

問題は、その原因である。頭の中には、痛みを引き起こすような病気はない。うなじが硬く、レントゲン写真では頸椎の変形も見られる。後頚部の筋肉が硬くなって、中を走る後頭神経が刺激されたために痛みが引き起こされたと考えやすい。が、医者なら、ここで、頭皮の「帯状疱疹」を忘れてはいけないのだ。

帯状疱疹といえば、胸やお腹にできる痛みを伴った赤いブツブツをイメージするかもしれない。帯状疱疹ウイルスが神経や皮膚に炎症を起こし、神経の広がる範囲に帯状に発疹が広がる病気だ。皮膚に広がる神経は全身にある。頭皮も例外ではない。頭皮に広がる後頭神経にも帯状疱疹は起きうるのである。

念のために、Sさんの痛がる後頭部の皮膚を診るが、発赤も水泡も見られない。と言って、安心はできない。帯状疱疹の皮膚症状は、痛みが出始めてから4、5日から1週間たってからでないと確認できないものだ。

「痛いところにブツブツが出たらすぐに皮膚科へ」と、繰り返し話す。ただでさえ、頭皮の変化は、髪の毛に隠れて見つけにくい。で、帯状疱疹の治療が遅れると、「帯状疱疹後神経痛」という後遺症が出て、患者さんも医者も泣かされることになる。

疼くようなイヤな痛みが、数年にわたって続くこともある。というのに、「何をおおげさな」と言いたげなSさん。強がってはいるが、実は面倒くさがりな高齢の男性こそ要注意です。

(石黒修三=いしぐろクリニック・脳神経外科医:7/11北國新聞掲載)