脳腫瘍が見つかった。外科医なら、なんとか手術で治せないものかと考えるものだ。

90歳のGさん。この頃ボーとしていることが多い。先日も、車庫の角で車をぶつけた。「認知症では?」と言って、娘さんが連れてきた。年齢相応のもの忘れはあるが、認知症ではない。だが、頭のMRI(磁気共鳴画像)の検査をしてみて、あっと驚いた。左の大脳深部にこぶし大の脳腫瘍が見付かったではないか。良性の髄膜腫である。前頭葉も側頭葉も強く圧迫されている。だが、頭痛もなければ、失語症も手足の麻痺もないのである。

さて、どうしよう。身震いがする。腫瘍であることを説明して、手術のできる病院へ紹介しようか。技術的には腫瘍の全摘は可能だ。でも、問題は年齢である。高齢者では、手術はうまくいっても、思いもかけない術後合併症に悩まされることもある。そして、腫瘍が認知症様の症状の原因だとしても、手術をして症状が改善されるという保証はない。

だいたいが、良性の腫瘍である髄膜腫は、大きくなるにしても年に1~2㍉という単位であろう。Gさんの寿命がいつまでかは分からない。が、仮に、あと10年あるとして、1~2㌢は大きくなるかもしれない。その程度の腫瘍の増大で、この先、日常生活に著しい支障をきたすとも考えられない。なら、手術をしないで症状経過を見るという選択肢もあるのである。

どちらを選ぶかは、患者さん本人に任せるほかないのである。が、Gさんの答えは、最初から決まっていたみたいに単純明快であった。「この先、何が起きても治療をしてほしくない」と、きっぱり。人それぞれの死生観は尊重されるべきだ。でも、いきなり打っちゃりを食ったみたいで、ちょっぴり寂しい思いのワッシーであった。

(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック・脳神経外科・石黒修三:10/23北國新聞掲載)