一番コワイ頭痛は、くも膜下出血によるものだ。診る度に、医者は肝を冷やす。

48歳のK子さん。若い頃から頭痛持ちで、時々、頭が締め付けるように痛くなる。市販の鎮痛剤でごまかしながら仕事をしていた。3日前の6時頃だった。いきなり、頭をバットで殴られたように頭が痛くなった。体が熱くなって、冷や汗をかいた。すぐに鎮痛剤をのんだが、痛みは軽くならなかったという。

それまで経験したことのない頭痛がいきなり起きた。冷や汗をかいた。頭痛は、ずっと続いているという。と、それだけ聞いただけで、ワッシーの武者震いは止まらない。「くも膜下出血」だ。MRA(磁気共鳴血管画像)では、右の中大脳動脈という頭蓋底にある血管の分岐部に直径が4~5㍉大の脳動脈瘤(血管のコブ)が見付かったではないか。コブが破れて、くも膜下出血を起こしたのだ。出血の程度が比較的軽く済んだので、意識消失はなく、手足の麻痺もない。

とはいえ、コブはいつまた破れるか分からない。今は、コブの破れ目は、かさぶたが張ったみたいになって止血しているだけ。出血する度に、その程度はひどく致命的だ。再出血時の死亡率は約50%で、再々出血では約80%以上になる。しかも、くも膜下出血は24時間以内に再出血を起こすことが多いのだ。だから、3日間も再出血もなく元気なK子さんは、とてもラッキーな人なのである。

これまでと違う強い頭痛が、いきなり起きて続くなら、まずはくも膜下出血を疑ってすぐに精密検査を受けたほうが良い。くも膜下出血の原因は、80~90%は脳動脈瘤が原因である。頭痛のない人でも、脳ドックでコブのないことを確認することが勧められている。老医の寿命をこれ以上縮めないよう、切に願いたい。

(石黒修三=いしぐろクリニック・脳神経外科医:8/22北國新聞掲載)