めまいや頭痛は、患者さんから詳しく話を聞くだけで大体の診断がつく。が、中には、医者泣かせのケースもあるのである。
80歳のF子さん。「昨日から、急にめまいがする。目の前がグルグル回るみたい」と、繰り返し訴える。だが、どんな状況でめまいが起きたのか?どれだけ続いたのか?じっとしていたら治まってきたか?など、肝心なことは答えてくてない。F子さんは、ひどい難聴だがおしゃべりだ。病気と関係のないことはよく話す。ま、言語障害はないようだ。目の動きは大丈夫。手足の動きにも支障はなさそうである。となれば、F子さんのめまいは耳が原因か?
めまいの原因は、二つに大別される。病気の元が、耳にあるのか脳にあるのかだ。つまり、耳の奥にある平衡感覚に関係する三半規管や前庭神経の異常で起きためまいか、平衡感覚に関係する脳の動きに問題があるかである。多くは、耳からのめまいは、グルグル回る回転性のめまい。脳からのめまいは、フワフワする浮動性のめまいとされている。F子さんのめまいは、回転性である。発作に難聴の憎悪や耳鳴りを伴わない。めまいはそう長く続かないようだ。なら、耳からのめまいで一番多い「良性頭位めまい」ではなかろうか。
と、単純に考えていると、誤診する。脳からのめまいでも、稀ではあるが、グルグルと回転するものがある。でMRI(磁気共鳴画像)の検査をする。が年齢相応の脳動脈硬化症を認めるだけである。
やはり、耳からのめまいか。おっと、あぶない。一過性脳虚血発作は?脳梗塞の前触れを忘れてはいけない。厳重に、経過をみる必要がある。というのに、F子さん。1週間も過ぎたというのに顔を見せない。めまいに振り回されて頭まで回りそうなワッシーは、今夜もよく眠れない。
(石黒修三=いしぐろクリニック・脳神経外科医:11/28北國新聞掲載)