どんなに良い薬でも、使い方によっては効果がみられない。いや、害にさえなる。

24歳のU子さん。片頭痛の患者さんだ。「センセ。この頃、トリプタン(片頭痛の薬)を飲んでも効かなくなった。頭痛も多くなったし、ひょっとして脳腫瘍では?」ときた。

念のために、頭のMRI(磁気共鳴画像)の検査はしたが、異常はない。と、U子さんは、「飲み過ぎは怖いし、高い薬だし」と白状した。頭痛が始まると、まずは市販の鎮痛剤をのむ。2、3時間経っても効果が乏しく、我慢しきれなくなってからトリプタンを服薬していたようだ。では、「頭痛がひどくなった時には、洗顔したり、枕が顔や頭に当たっただけでヒリヒリするような痛みが起きていたのでは?」と聞くと、こっくりと頷くではないか。片頭痛の患者さんにはよくみられるアロディニアである。

アロディニアは、異痛症とも呼ばれる。皮膚に触っただけでも痛みとして感じてしまう状態である。痛みの感受性が高まるからという。片頭痛では、頭痛のピーク時に出やすい。だが、患者さんは自覚していても、頭痛の方が強いため、自分からアロディニアを訴えることは少ない。

しかし、アロディニアの有無は、重大な意味を持つのである。薬を飲むタイミングに関係してくる。アロディニアがあると、トリプタンが効かなくなるとまでは言えない。が、アロディニアが完成するとされる頭痛出現後3~4時間も経ってからの服薬では、トリプタンの効果は期待できないのだ。しかも、アロディニアが起きた人は、片頭痛が慢性化しやすいとも言われている。

医者は、患者さんなら、片頭痛の発作が始まればすぐにでも処方薬を飲んでくれるものと思っている。が、世の中にはいろんな人がいる、と知るべきである。

(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック、脳神経外科医・石黒修三:6/7北國新聞掲載)