とかくこの世はままならぬ。先々の不安などただ損のようでもある。
高血圧で通院中の85歳のTさん。ある日、ポツリと、「どうせ死ぬなら、ピンピンコロリ(PPK)といきたいものだ」と呟く。よく話を聞くと、「足が弱くなって、先日も階段で転びそうになった。骨折でもして、ネンネンコロリ(NNK)になるのでは」とやたら不安そうなのである。
奥さんが後ろで、「何しろ、家では、文句だけ言う置物ですから」と苦笑いしている。ま、人生ぎりぎりまで健康で、人に迷惑をかけずに終われそうなPPKを夢見る気持ちは分からないわけではない。が、現実はそんなに甘くはない。
PPKになるのは、脳卒中や心筋梗塞などの突然死の時だ。では、その危険性がある脳動脈瘤(コブ)持ちの人がどうなるかを考えてみよう。コブは、手術の危険性が高いので経過をみている。が、いつコブが破れるか分からない。で、毎日が気がかりだ。
そして、ある日。ついにくも膜下出血を起こした。激烈な頭痛だ。でも、意識がなくなり、心肺停止すれば痛みも感じないだろう。そのまま放っておいてほしいと願うのだが、不審死では家族にあらぬ疑いが掛からぬとも限らない。救急車を呼ぶことになるだろう。病院でも、患者の希望とは裏腹に様々な救命措置がほどかされる。それで、生き残ったら最悪かも。出血による後遺症で、下の世話は勿論、食事まで介助が必要になるかもしれない。NNKまっしぐらだ。
病気も死に方も、自分の好みに選ぶことはできないのだ。できるのは、生活不活発病にならないように、マメに体を動かすことくらいだ。と、医者は立場上そう言う。が、その医者だって、仕事といってもしゃべる置物のようなもので、家ではほぼ粗大ごみ化していたりする。
(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック・脳神経外科・石黒修三:11/6北國新聞掲載)