女性の更年期にみられるもの忘れは、認知症の症状ではない。エストロゲンの減少による一過性の記憶障害だ。多くは、閉経後に治るという。

「でも、女性にアルツハイマー型認知症が多いのは事実でしょう?」と、48歳のA子さんは黙っていない。認知症が多いのは、女性が長寿だから、だけではない。閉経によるエストロゲンの減少も原因として疑わしい。なら、不足分を補充すればよいはずだ。ホルモン補充療法(HRT)でエストロゲンを増やしてやれば、認知症予防になるのではというのである。

確かに、エストロゲンには、海馬や大脳皮質の神経細胞の保護、脳血流の維持やアルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβの沈着を抑える作用があるとされている。長く続く閉経後のエストロゲンの減少は、認知症の大きな危険因子になりうるかも。ならば、HRTでそれを補充するのは理にかなっているように思える。だが、現実はそう甘くはないのだ。

HRTの効果については、これまで様々な研究が行われている。閉経から10年未満の女性が対象の場合では、HRTは、認知症の発症予防に効果があったという報告はある。が、なかったという報告もあり、結果ははっきりしないままだ。

また、閉経から10年以上経ってから女性ホルモンを投与した女性が対象の場合では、予防効果はなくむしろマイナスの影響しかなかったという結果が出ている。

というわけで、HRTは、更年期症状(ほてり、発汗、睡眠障害など)の改善を目的として使用されるべきであり、認知症予防に使うべきではないという結論になる。

で、まずは婦人科の受診をすすめられたA子さん。帰り際に、「男は良いわね」とポツリ。でも、男にも、男性ホルモンの問題がありますよ。

(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック・脳神経外科・石黒修三:5/16北國新聞掲載)