何事にも、良いと分かってはいても、なかなか実行できないこともある。
54歳のÅ子さん。1年半くらい前から、時々、右の頬の辺りが痛むようになった。1日に数回、瞬間的に、鋭い痛みが走る。歯磨きや洗顔、お化粧が引き金になったりするという。歯科で診てもらったが、歯には異常はない。
顔の痛みだから「顔面神経痛か?」と聞いてくるが、正しくは「三叉神経痛」である。Å子さんの場合は、三つ又の三叉神経の2番目の枝、主に頬に広がる上顎神経の支配領域の痛みである。
MRI(磁気共鳴画像)の検査で、脳腫瘍が見付かることもあるが稀である。三叉神経痛の多くは、脳動脈が三叉神経の根もとにぶつかっていることが原因で起きる。動脈の拍動が、神経を覆っている細胞を傷つけ、電気ショートのような現象が起きるとされる。ならば、その脳血管の圧迫を取り除く「微小神経血管減圧術」をしてやればよいことになる。
手術手技はそう難しいものではない。成功率は、80~95%と高い。とはいえ、脳の手術に変わりはない。少ないが、合併症もある。
と聞いただけで、Å子さんは固まった。手術なんか絶対イヤ。神経ブロックも放射線治療もイヤ。「何とかお薬で治して」ということになったのだ。で、神経痛の薬が良く効いた。痛みは、ほとんどなくなったのだ。が、薬を飲むとふらつきや眠気が強く、仕事に支障をきたすという。薬の種類を変えても、満足はしてくれない。
ならば、手術したほうが良いと勧める。だが、さすがのÅ子さんなのだ。観念するまで、それから半年以上もかかった。で、手術の合併症はなく、痛みはなくなった。と、Å子さん。「こんなのなら、もっと早く手術すれば良かったワ」と。よく言うわ。いやはや、疲れる人であった。