頭部打撲後に意識がはっきりしていれば、大概の人は、家で経過をみることになる。だが、少なくとも受傷後数時間は、一人にさせておいてはいけない。
30歳のFさん。階段で足を滑らせ、右側頭部を強打した。意識はなくなっていない。2時間近く経ってから、一度は軽くなった頭痛がまたひどくなってきたという。そのうち、痛みはがまんできないほどになり、いきなり嘔吐した。深酒したみたいに言動がおかしくなり、やがて、閉眼しがちになり問いかけにも応じなくなった。
病名は、「急性硬膜外血腫」である。側頭骨に骨折がみられ、脳を覆う硬膜と頭蓋骨との間に血腫ができていて、脳を強く圧迫していた。緊急手術で血腫を除去し、救命しえた一例である。出血源は、骨折直下で断裂した中硬膜動脈であり、開頭時には、まだ勢いよく出血していた。ワッシーは、時折、30年以上前のその動脈血の噴出を昨日のことのように生々しく思い出す。
頭蓋骨の骨折に伴って硬膜動脈が裂け、動脈から出血が続いたのだろう。血腫が大きくになるにつれ、脳圧(頭蓋内圧)は高くなる。高くなれば、打撲による頭痛に代わって、脳圧亢進による頭痛が起きてくる。頭痛はひどくなるばかりで、やがて、嘔吐も加わるようになる。血腫は脳を圧排して、手足の麻痺が起きるようになるかもしれない。
いや、怖いのは、脳圧亢進による意識障害である。まずは、おかしな行動をするようになる。自分の生年月日や名前が言えなかったりする。やがて、刺激がないと寝てしまう。傾眠だ。そのうち、叩いても蹴飛ばしても目を覚まさなくなる。昏睡である。命がアブナイ。
外傷後少し時間がたってから、どんどん頭痛がひどくなる。嘔吐した。言動がおかしいとなったら救急車を呼んでほしい。
(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック・脳神経外科・石黒修三:2/21北國新聞掲載)