どんなに良い治療法でも、まずは、その必要性を納得してもらわねばならない。が、患者さんの中には頑固者もいて、医者が苦労することもある。
56歳のNさん。脳血管障害と高血圧症の患者さんだ。肥満があり、喫煙の習慣も変わらない。その上、最近は、悪玉コレステロールであるLDLの値が140mg/dL以上と高い。放置すれば動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高める。そこで、禁煙を勧め、食事指導もする。だが、「はい。分かりました」と返事だけは良い。となれば、LDL高値は、薬物療法に頼るしかないのだ。が、Nさんは、どういうわけか服薬の追加を頑なに拒否するのである。どうしよう。
単純なワッシーが思いついたのは、医者のよく使う「脅し」とも言えるものだった。「このままにしておくと、認知症になる危険性が高まるかも」と、ポツリと一言。だが、さも深刻そうに、漏らしたのだった。実は、Nさんの母親は、認知症で施設に入所しているのだ。で、効果は抜群であった。
認知症の危険性は、ウソではない。2024年に発表されたランセット認知症予防・介入・ケア国際委員会による論文によれば、45~65歳の中年期で、LDLコレステロール高値と認知症発症のリスクの関連性が新たに追加され、65歳までに改善に取り組む重要性が強調されているのである。LDL高値は、脳血管障害による認知症を増やすだけではなく、アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβやタウ蛋白の沈着を促進させる危険性があるからではないかとされている。
人のためになるなら「嘘も方便」と、ついてはいけない嘘が許されることがある。ならば、ヘボ医者の脅しも許されてしかるべきか?でも、なんとなく後味が悪いものである。
(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック・脳神経外科・石黒修三:4/18北國新聞掲載)