軽くドアに頭をぶつけただけでも、いや、しりもちをついただけでも、頭の中に出血することはある。が、心配のし過ぎも困ったものだ。

N子さん。77歳。うっかりして、机の角におでこをぶつけた。4,5日様子を見ていたが、なんとなく頭がすっきりしない。で、頭の中に血腫ができて手術をした知人のことを思い出した。「私も?」と急に不安になった。

打撲は、脳震盪の疑いさえもない軽微なものである。しかも、外傷から4,5日も経っている。急性の頭蓋内血腫なら、すでに、ひどい頭痛や脳の症状も出てしまっているはずだ。そして、頭のCT(コンピューター断層撮影)検査をしても、まったく異常はみられないのである。かといって、N子さんに、「ゼーンゼン心配要らない」などとは言えない。逆に、「打撲日を忘れないで」と念を押さなければならないのである。

というのも、打撲後、多くは1~2カ月後に発症する「慢性硬膜下血腫」は、加齢による脳の萎縮を伴う高齢者に起きやすいからだ。血液サラサラの薬を飲んでいる人やお酒飲みなら、余計に注意が必要である。

慢性硬膜下血腫の症状は、頭をぶつけたことも忘れた頃に出てくる。頭が痛い。ボーッとしている。片方の手足が動かしにくい。歩きにくいなど、人それぞれだ。認知症と間違えられて来る人もいる。

だが、「頭の中に出血している」からといって、慌てる必要はないのだ。血腫が小さく症状があっても軽いものなら、五苓散や柴苓湯といった漢方薬で大概の血腫は治癒していく。血腫が大きく、症状が強ければ手術になるが、頭蓋骨に小さな穴を開けて血腫を洗い流すだけの簡単なものだ。医者になり立ての、新米ほやほやの医者でも名医になれる。治療を受けさえすれば治る病気なのである。

(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック・脳神経外科・石黒修三:1/24北國新聞掲載)