年を取ると、何かしら体の不都合が出てくる。で、「ひょっとして重い病気でも?」と思い煩い、眠れぬ夜を過ごしたりする。

82歳のSさん。まだゴルフもするという元気なひと。鼻水がポタポタ落ちると訴える。「ことに、食事中がひどい。この頃頭が重いけど、脳の水が漏れ出ているからではないか?」と深刻である。

あちこちの耳鼻科で、色々と治療を受けてきた。内科でも、漢方薬をもらったが良くならない。鼻水は、実は、頭に病気があるからではないか?と言うのだ。が、Sさんには、頭部外傷も頭蓋底の手術歴もない。鼻水は、頭の病気とは何の関係もない。サラサラの水のような鼻水は、昔からよく知られている高齢者に多いもので、加齢性または老人性鼻漏と呼ばれるものに違いなかろう。

60歳を過ぎるとみられる老人性鼻漏は、加齢による鼻粘膜の萎縮が原因である。鼻粘膜の保温作用や鼻水を鼻の奥へ送り込む作用が低下するためらしい。温まった呼気が結露して水滴になり鼻から出る。食事中に多いのは、加齢のため口の中と鼻の交通が閉じなくなるためのようだ。

何を隠そう。ワッシーにも、この鼻漏がある。文献を読むと、老人性鼻漏は病気ではないとある。が、なぜか治療法も書いてある。マスクの使用や足湯、冷えに効く漢方薬などに効果があることになっている。だが、たかが鼻水くらいに足湯を続ける人は多くいまい。マスクをして食事はできない。

そして、Sさんのように、躍起になって鼻水をなくそうとすると、ドクターショッピングを繰り返すことになる。ならば、年を取れば体の不都合があるものと早々に諦め(明らめ)、ほどほどに対処した方が良いのでは。ええ、ワッシーは、医者の不養生ということもあって、鼻たれのままでいます。

(石黒修三=いしぐろクリニック・脳神経外科医:10/31北國新聞掲載)