めまいやふらつきは、高齢者に多い訴えのひとつである。簡単に考えていると、大変な病気が隠れていることもある。

78歳のA子さん。高血圧と糖尿病の長い治療歴がある。3日前、何もしていないのに、急にめまいがしたと訴える。頭がふらつくようになり、同時に、左足に軽い違和感がして、さっさと歩けなくなった。安静にしていたが、良くならない。2日後、かかりつけ医に相談したら、「何をしている。すぐに脳を診てもらえ」ということになった。この先生、なかなかの名医だ。

診察すると、歩行障害以外に、軽い言語障害もあってスムーズに話せない。左手がうまく使えず、指差そうとしても正確にできない。小脳や脳幹が傷ついた時にみられる神経症状である。急いで頭のMRI(磁気共鳴画像)の検査をすると、橋脳という脳幹に新しい脳梗塞が見付かったではないか。脳血管の動脈硬化も強く、病気の進展や再発作も心配である。

めまいの原因として、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害は比較的稀なものとされている。しかし、脳血管障害の危険因子を多く持っている高齢者では、頻度が高いはずである。ひょっとして、見逃されていないだろうか?

めまいの他に、言語障害や歩行障害などの神経症状があれば、脳血管障害を疑いやすい。だが、神経症状が軽くて目立たない場合もある。いや、実際に、めまいだけという脳血管障害のケースもあるのである。

だから、脳血管障害によるめまいの特徴をよく記憶しておいてほしいと思うのだ。それは、なにもしないのに突然発症し、安静臥床でも良くならないということである。そうです。立ち上がった時に一瞬ふらっとするとか、いつの間にか、少しずつ、足元が怪しくなってきたなどというものではありませんよ。

(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック、脳神経外科医・石黒修三:12/12北國新聞掲載)