「瓢箪から駒」ということもある。肝を冷やしたり、歓喜したり。今日も、医者は忙しい。
63歳のS子さん。転んで頭を打った。頭が重いと言う。診ても、後頭部に小さなコブができているだけだ。が、不安が強い。ならば、せめてCT(コンピューター断層撮影)検査で、頭の中には出血などないことを確認することにしようか。
だが、待てよ。S子さんは数年前から血圧が高くて降圧剤を飲んでいるという。そのうえ母親や姉にも、脳卒中の病歴がある。ということは、S子さんにも、頭の打撲とは関係なく、なんらかの脳血管障害が起きている危険性がある。となれば、CTの検査では不十分だ。どうせ頭の検査をするのなら、少し面倒だが、より情報量の多いMRI(磁気共鳴画像)の検査をしたほうが良いことになる。
で、その結果だが、脳のあちこちに白いシミのようなものが見えるではないか。出血ではない。無症状だが、脳の細い血管の流れが慢性的に悪いとみられる虚血性変化である。放置すれば、脳梗塞や認知症の危険性が増すという。
いや、それよりもワッシーが腰を抜かしそうになったのは、MRA(磁気共鳴血管画像)の写真である。脳低部の動脈が枝分かれをする部位に、5~6㍉大の脳動脈瘤が見つかったのだ。手術が必要である。が、さても危ないところであった。もしも、CT検査を選んでいたら、S子さんはそのうち動脈瘤が破れて、くも膜下出血を起こすかもしれないのだ。
中高年になると、症状はなくても脳血管に変化が見つかることが増える。ことに、高血圧、糖尿病や脂質異常症の人や家族が脳卒中(ことにくも膜下出血)になった人では、MRIによる頭の精密検査がお勧めである。か弱い医者の寿命が、さらに縮まらないように祈るが。
(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック・脳神経外科・石黒修三:11/20北國新聞掲載)