医者は、「どんな頭痛か」を患者さんから聞き出して、大方の診断をつける。だから、訴えによっては、迷医の道まっしぐらにもなる。

62歳のT子さん。約1週間前から、左の前頭部が痛くなった。「ツクツクする。いや、ズキズキするかな?重いようにも感じる」と、はっきりしない。次いで、「頭痛は毎日続くし、少しひどくなってきた」と言うが、どこまでホントだろうか?困った。

と、T子さん。「実は、近所の人が血圧が高くて倒れた。それから、私の血圧も高くなって、頭も痛い。血圧のせいで頭痛がして、脳出血でも起こしたのでは?」と訴える。確かに、彼女の血圧は165/80とやや高い。が、上の血圧が少なくとも200以上にならないと、頭痛は起きないものだ。高血圧は、頭痛の原因ではない。不安のせいか。

頭痛の記憶があいまいになるのは、「コワイ病気でも?」と思った途端、どんな頭痛かまで気が回らなくなってしまうからか?中には、訴えがひどくオーバーになったり、心配する病気に合わせて症状を作り出してしまう人さえいる。

では、T子さんの頭痛の本当の原因はなんであろう?初めての頭痛で、進行しているというのが事実なら、脳出血や脳腫瘍なども否定はできない。が、頭のMRI(磁気共鳴画像)検査をしても、脳内には異常はみられない。ただ、左の前頭洞という眼の上の方にある副鼻腔に炎症が見られた。急性前頭洞炎である。

「大山鳴動して鼠一匹ですね」と、T子さんと笑い合ったものだ。が、それまで経験したことがない頭痛なら、なにか原因があるはず。治療が遅れると大事に至る病気もある。頭痛がしたら、いつから?どこが?どのように?どうなったか?メモをしよう。自分勝手な判断はやめて、まずは医者に相談をすることだ。

(石黒修三=いしぐろクリニック・脳神経外科医:8/8北國新聞掲載)