嘔吐なんて、滅多にするものではない。それも頭を打った後だとしたら「さては、頭の中にタイヘンなことが起きたのでは?」と思うのだろう。

6歳のY君。雪道で転び、後ろ頭を路面にぶつけておおきなコブを作っている。意識がなくなった様子はなさそうだが、しばらくフラフラしていたらしい。クリニックに着いてから、一度嘔吐した。若いお母さんが、真っ青になって震えている。

騒がしいので、ワッシーは、応急処置室まで診にいった。Y君は、少し顔色も青ざめ、ぐったりして横になっていた。が、意識は清明で、診察には的確に応じてくれた。打撲部位の痛みはあるが自制内で、手足の麻痺などはみられない。「脳震盪で済みそうだな。ま、慌てることはない」と、ワッシーは、自分に言い聞かせる。でも、スッタフには、「大至急、検査を」と指示を出す。

頭のレントゲン写真には骨折はみられない。CT(コンピューター断層撮影)の検査でも、出血や脳挫傷などの異常はみられない。やはり、ふらつきや嘔吐は、脳震盪の症状と考えてよいのである。Y君は、検査が終わる頃には元気になって、顔色も元に戻っていた。

そうだ。子供と大人は違うのである。もしも、大人が頭部打撲後に嘔吐したら、まずは頭蓋内の出血や脳挫傷などの重篤な状態を疑わなければならない。だが、子供は、脳震盪を起こしやすく、また嘔吐中枢が衝撃に対して非常に敏感に反応するようにできている。だから、嘔吐しやすいのである。

頭を強くぶつけたとしても、普段と変わらず意識がはっきりしていて、頭痛も強くなく、嘔吐しても1、2度で済むものなら、急を要する状態ではないということだ。と、繰り返し説明するのだが、なぜか、お母さんの顔色の悪さと震えはずっと続いていた。

(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック・脳神経外科・石黒修三:2/7北國新聞掲載)