「朝起きたら右手が痺れて動かない」という若い男性が来院しました。就寝時は、特に発症の原因となるような出来事は思い当たらず、ちょっと深酒をして寝たそうです。診察してみると、手関節や指が背側に伸ばせず、幽霊のようにダランとしていて、手背が痺れるとのことでした。
これは橈骨神経という神経が、上腕で障害された場合に起こる症状です。橈骨神経は上腕骨に沿って手に向かって走行していますが、腕の内側は筋肉が薄く、その部分で神経が圧迫される状態が続くと、神経が障害を受けてしまいます。この患者さんのケースでは、飲酒後右腕を下にして寝入ってしまったようです。
この麻痺は腕枕をしてあげた翌日に発症するので、医学部の授業では別名「サタデーナイト症候群」「ハネムーン症候群」と教わりました。しかし私は、今まで「腕枕で発症しました」という患者さんに出会ったことはありません。たまたまなのか、ちょっと言い出しにくいからなのかもしれません。
治療は、ビタミン剤の内服などがありますが、基本的には再圧迫しないようにして神経の回復を待ちます。通常は数週から2カ月つらいで症状が軽快します。手の痺れや筋力障害は、その他の疾患でも起きることもありますので、気になる症状がある場合は、医療機関に受診して診断してもらうことが大切です。
(いしぐろ脳神経・整形外科クリニック院長、整形外科医:北國新聞掲載)